第2章 Season 1 夢のあと
あれ?私こういう話を人にする事ってあんまりないはずなのに、なんか最近こういう話、したような気がする。どこでだろう……。
「そーかそーか。じゃ、やっぱり治さんは馬鹿だ」
「なんで、そうなるの?」
「いや、だって馬鹿でしょ?可愛い可愛い自分の嫁さんほっとくなんて、夫としての義務を果たせてねぇ」
ごっそーさん、とパスタを食べ終えた紘が椅子から立ち上がり、私のそばに来た。
それから、テーブルと私の座ってる椅子の背もたれに手を掛け、ふっと上体を傾けてきた。
「何!!?」
「ん?俺がよくできましたのご褒美にキスしてやる。ほら、目ぇ閉じて」
「は?ちょ、何言ってんの急に?紘。馬鹿なの?」
とっさの事に逃げ場を失い、私は座ったまま少し後ずさった。
「馬鹿じゃねぇよ。今だって、一生懸命暗くなんないように暗くなんないようにって、無理して笑っていっぱい我慢して。俺はおめえがあまりに可愛そうだから、慰めのキスしてやりてぇの」
「はぁ?可愛そうって何それ?なんか、話変わってない?」
単語一つ一つには、いちいち勢いがあるが、紘の口調は先ほどとなんら変わってない。
怒ってる風でも、ふざけてる風でもなく、いつもの紘。しかし、
「変わってない。これが俺のやり方なんだよ。もしも俺が治さんのポジションで慧が嫁さんだったら、感謝の気持ちだったり、愛情表現はちゃんと態度で示したい。慧だって、ほんとはそういう風に態度で示して欲しいって思ってるんじゃねーの?」
急に今までの口調に強さが加わり、ほら、と二の腕をつかまれた。
「……ちょっと……紘……?なんか、おかしいよこの展開。愛情表現って、紘のそれは私の思ってるそれとは違うでしょ?」
「だからー、さっきも言ったじゃん。治さんの代わりに俺が言ってやるって。俺、おまえのこと嫌いじゃないよ」
「だからって、紘は私の旦那さんじゃないでしょ?いくら嫌いじゃないからってそんな同情でキスして欲しい、なんて思えるほど私はもう若くないよ!」
「俺がキスしたいって言ってんの!若くないだとか治さんがどうとかもう関係ない。絶対慧はちょっとこうやって羽目はずしたほうがいい。俺が手伝ってやるから」
「ちょっと紘、そういうのやめてよ」
なんとか紘の気をそらそうと、混乱した頭の中から否定の言葉を並べようとはしてみた。