第2章 Season 1 夢のあと
「治さんはねー、もう私のこと女だなんて思ってないからねー。もしかしたら、他にいい人がいるのかも」
あははと、暗くならないように音を上げて、冗談っぽく言った。だけど、
「ふーん、そうなんだー。でもさー本当にそうだとしたら、治さんって馬鹿じゃね?」
返してくる紘の声は、真面目だった。
「なんでー?」
一応聞き返してみるものの、私の中でも、治さんはいい加減馬鹿だと思っているので、なんで、と返しはしたが特に腹も立たない。
それにあまりにはっきり馬鹿と言われたのがまた心地よかった。
出来上がったパスタを、味見もせずに皿に盛り付けた。
見た目でどっちが紘のかわかるくらい盛り付けに差をつけて。
なんとなくだけど、こういうときに、自分のと相手のを同じ量にはできない。
盛り付け終わった皿をテーブルに運び、フォークとスプーンを並べた。
麦茶でいいよねといいながら、グラスを持って戻ると、
「だってさー、慧ってけっこう健気っつか、可愛いとこあんじゃん?例えばほら、こうやって盛り付けるにしてもちゃんと男を立ててるっつーか」
そんな量でたりるんかー?と言いながら紘はフォークを手に取り、
「いただきまっす!」
と叫び、紘はパスタを食べ始めた。
「別に可愛かねーしっっ」
紘の口調を真似しながら私も座り、食事を始めた。
言われ慣れない単語に戸惑いながらも、お茶を一口のみ、フォークを握った。
「……慧……」
「何?」
「やっぱり、俺、さっき地雷踏んだよね?」
「何で?」
「……だぁって、辛いよ、これ!めちゃくちゃ胡椒きいてんじゃん!!いつもの慧はこんなミスしないでしょ?ぜってー怒ってんでしょ?」
「え??」
慌てて私もパスタを口に入れた。
「うぁ、ほんとら……」
後からくるむせるような胡椒の味。確かにききすぎてる。
自分の気持ちを立て直すのに必死になって、胡椒を必要以上に振っていたみたいだ。
「あーもう、俺のせいだー。ごめん慧ー」
「いやいや、これは完全に私のミスだから!!ちょっとリメイクさしてもらってもいい?」
「できんの?」
「できるもなにも、こんなに胡椒辛くちゃ、食べれないでしょ?貸して」