第1章 Season 1 同居人
本当は治さんに対してこういうことをするべきなんだろうけど、もうどうやったらうまく治さんに甘えられるのか思い出せない。
裕の背中の温かさに、涙が出てきた。
「……慧さん、泣いてるの?」
他の二人に聞こえないように、裕がそっと聞いてきた。
「……泣いてなんか、ないよ。でも、もうちょっとこうしててもいい?」
「うん、いいよ」
切なかった。悔しかった。情けなかった。
あまりにも弱い自分。
いろんな思いが交錯して、涙が止まらなくなった。
本当は、治さんにこうして欲しかった。
もっと、私を見てて欲しかった。
でも、その思いが伝わらないのなら……。
自分のずるさに腹が立つ。
もう、何がなんだか訳がわかんなくなって、ただ、目から涙が溢れ続けた。
溢れた涙が、裕のTシャツに染みをつけた。
「裕、……ごめんね」
しばらくそうしていると、少し落ち着いてきて、眠気が襲ってきた。
ウトウトしていると、だんだん身体の力が抜けてきて、そのままずるずると裕の背中から滑り落ちるように床に寝転んだ。
「ちょと!?慧さん?」
「んー?……なんかねむたくなってきちゃった……」
涙に濡れた目をこすりながら身体を起こした。
「何ー?慧さんかわいーい。そんな慧さんに僕がカクテルを作ってあげますー」
翼がからかうように言い、グラスにジュースやらお酒やらを注ぎ始めた。
本当はそのまま寝てしまいたかったけど、なんとかまた座りなおすと宴会に戻った。
「わー、なんかつばお洒落な事しよるー」
「言ってもジュースとお酒混ぜただけ、だけどね。はい、どうぞー」
「でも、なんか層になってるよー。カワイイ」
少し泣いて、棘を流した私は翼の作ってくれたオレンジと赤が層になっているカクテルに目を覚ました。
それでもまだ少し眠気が覚めなくてふらつく身体を支えるために、左手は床についておいた。
手に取ってひとくち。
「このカクテル、甘くておいしいー」
「おいしいからって呑みすぎたらだめだよ、慧さん。翼のカクテル、店仕込みですごい度数高いから」
俺何回も潰されそうになったもん、と私の横にいる裕が溜息をつく。
「ちょ、裕たん、それ内緒ー」
翼が人差し指を立ててしー、とやっていた。