第1章 Season 1 同居人
食器棚からグラスを取り出そうとするが、うまくいかなくて、ひとつ握っては平らな場所に下ろし、またひとつ握っては平らな場所に置くを繰り返した。
なんとか4つグラスを確保すると、追いかけてきていた裕に二つ渡し、残りを自分で持つと、またフラフラ二階へ上がろうと歩き出した。
そんな私に、裕がそっと、
「さっきの、冗談とかふざけたつもりはないし、俺はいたって真面目だから」
と告げた。
「ん?」
何だ?と振り返る私に、裕はもう一度キスをしてくれた。
「うんそっか。それならいい。だけど真面目なだけで止めといて。私なんかに本気になっちゃだめだよ、裕の人生滅茶苦茶にしちゃう。……でも嫌じゃなかったよ。ありがと」
短いキスの後、私は裕にそう答えた。
それからまた2階に戻って焼酎やウィスキーをソーダなんかで割って呑みながら、私は自分の意識が少しずつ落ちてき始めてるのを感じていた。
やっぱり少し調子に乗って呑みすぎたかな?
でも、拓たちに合わせてると、ピッチも早いしついつい楽しくなってあれもこれもと呑んでしまう。
「慧さん、こっちきなよ」
私の隣に座って呑んでいた裕が、少し間を詰めて自分の肩をぽんぽんと叩いた。
「ん?」
「ここ、もたれかかってていーよ。なんか眠そう。背中でもいいし」
「うん」
もう、理性なんかぶっとんでて、正常な判断さえできなくなってる私は、素直に裕の言葉に従った。
それでも拓たちから見える位置で肩に頭を乗せるのは少し気がとがめて、ずるずると裕の後ろに回ると、すがりつくように裕の肩に手を掛け背中にもたれかかる。
――あったかい。なんか、安心する。
裕の背中に顔をこすり付けて、少し目を閉じた。
「あれ?慧さんは?」
「ここ」
翼の問いに、裕が背中を指差す。
「あれあれ、気に入られてから」
拓がからかってきて、結局恥ずかしいのに変わりはなかったが、もう、どうだっていい。
今だけは、悪いけど裕に甘えさせてもらおう。