第1章 Season 1 同居人
「一人で不安になってないで、俺にぶつけていーよ。俺、受け止められるから。無理してる慧さん見てるほうがつらい。だから、もっと頼ってよ。俺ってそんな頼りない?」
そう言うと、ふと身体をかがめて、私に顔を寄せてきた。
「あ……」
考える間も、抵抗する間もなく、裕の唇と私の唇が重なる。
とろんとした頭の中で、私は今の状況を一生懸命整理しようとしてみた。
しかしまったく効果がなく、されるがまま裕のキスを私は受け止めるしか出来なかった。
しばらくすると唇が離れ、裕が少し申し訳なさそうな顔をして私を見ていた。
「チーズ臭っ……。何よ急に。先行くよ!」
私は裕にそう言うと、裕の腕を振りほどきアイスペールを掴んで踵を返した。
その後を裕が、ソーダなんかを抱えてついてきた。
動揺していないわけじゃない。ただ、アルコールが回ってる頭じゃ、冷静な判断はできない。
私は必死でなんともない風を演じた。裕だってたぶん一時の気の迷い。
ただ、嫌ではなかったのは確かだ。
「ただいまー。今度は水割りとかしよー。つばさっちももっと呑めー。もっと酔えー」
「あっはは、慧さんって、酔っ払うとなんかベタベタでおもろーい」
アイスペールを置いて翼の隣に座り肩に腕を回すと、彼もまたアルコールで染まった頬で笑った。
「つばさっちは相変わらず、かわいー」
肩に腕を回したままぎゅうっと締め上げる。
「ちょっと苦しいっ……もう、ほら、慧さんももっと呑んでー」
自分が飲んでいたビールの缶を私に近づけた。私も素直にそれに口をつけて呑んだ。
「にがーい」
「にがくないよー」
身体をくっつけたまんま、馬鹿みたいな会話をする私たちに、裕がすこし困った顔をしながらこっちを見てる気がする。
それから、グラスを持ってくるのを忘れたのを思い出し、私はまた立ち上がった。
「んね、裕。グラス取りにいこ?ついてきてよ」
たぶんここにもグラスくらい置いてあるんだろうけど、探すのさえ面倒で裕に声をかけながら私はまたふらふらとキッチンに降りた。
「何か慧さんご機嫌じゃー。やっぱ慧さんはそういうほうがええっちゃねー」
後ろから拓の声が聞こえてきた。
「そぉかなぁ?何か危なっかしいけど……」
裕はそう言いながらも私を追いかけてきてくれた。