第11章 Season 1 理由
「奥さんはずっと子供が欲しかったんだよね。だから、旦那さんの子供じゃなくても構わない。だから産むって。でも、拓や翼にしてみたらそんな話受け入れられるわけないでしょ?彼女が旦那さんと別れてくれたらまた違ったのかもしれないけど、その選択肢はなかったらしくて。で、いつまでも黙ってるわけにはいかないじゃない?彼女、旦那さんに話しちゃったらしいんだ。もちろん、旦那さんからしたら気分いい話じゃあない。自分が奥さんを満足させてあげられない分、拓たちが自分の奥さんと関係を持っているのを見てみぬ振りはしてたらしいんだけど、子供を作るなんてところまでは許したつもりはない。それは、誰も幸せになれない。罪のない子供が不幸になるだけだ、って。拓と翼を呼び出して、殴り合いになって、暴言が飛び交って。俺が駆けつけたときにはすごい状態だった」
なんだか喉が渇く。私はまだ残っていたお茶を喉に流し込んだ。
「結局、堕ろすことになったんだけど、手術の前に奥さん事故にあってね。拓も翼も罪を感じてるんだよね。翼なんか当時まだ高校出るか出てないかくらいだったし……」
急展開に私は目を見開いた。
だから、拓は自分の口からは言えないって言ったんだ。
今の話で最近の翼の行動や、それに対する拓の言葉の意味が判った。
「そのせいで、拓は女性恐怖症でそれを克服しようとして彼女をつくろうとしても、また傷つけてしまう恐怖がよぎって決定打が打てないし、翼はその奥さんにだいぶ仕込まれたみたいなんだけど、素面じゃセックスできないし、また孕ませるかもって思うとブレーキかかっちゃって最後までできないみたい」
祥さんは酷く淡々と話す。なんだか切り取られたように現実感がなかった。
「裕たちはそれ……」
「聞いてないと思うよ?言えないんだよ……罪が重たすぎて。でも、ただ慧ちゃんちで暮らしはじめて拓と翼は変わった。前ほど罪に縛られていないみたいだし。もう少しで立ち直れそうだがらそれまで面倒みてほしい」
「はい……」
私は祥さんの言葉を頭の中で必死に整理しようとした。
知らなきゃよかったという思いと、知らなくちゃならないという思いが交錯してパニックになりそうだった。