第9章 Season 1 苛立ち
「あれ?どっか行くの?」
「ん?今からバイト。三日も休みだったからなまってるかもだけど、ちょっと働いてくるね」
私が笑顔でそう答えると、翼が、
「もう、辞めたほうがいいよ。僕、見えないところに慧さんが行くのいやだ」
とすがり付いてきた。
「うーん、今日明日に辞めますってわけにはいかないけど、実はそろそろ辞めようかなとは思ってるんだよね」
私はそう返した。みんなが少し不思議そうな目で見ている。
「別に深い意味はないよ?だいぶ生活も楽になったから、もうちょっと真剣に子供に向き合おうかなって思ってるだけで……」
「そっか。なら早く辞めてね」
翼がしつこく辞める事を促してくる。
「もー、つばは心配性じゃね。慧さんは大丈夫っちゃ」
「大丈夫なんて誰が言いきれるの?僕には信じられないよ。拓ちゃんは気付いてないかもだけど……!!」
拓と翼の会話の内容がよくつかめなくて、裕や紘のほうを見てみるけど、こちらもよくわからない、というような顔をしていた。
「だったら、今日は僕も一緒に行く。慧さん送ってって、帰る時間にまた迎えに行く!」
そう言うと、翼は立ち上がり、自分の部屋に戻った。
「え、ちょっとつばさっち?」
「……ごめんけど、慧さん、つばのやりたいようにやらしちゃってくれる?」
「いや、別に構わないけど……」
私は、拓の言葉にうなずいて、着替えをするために階下に下りた。
着替えも簡単な化粧も済み、そろそろ出かけようと玄関に向かうと、すでに翼が待っていた。
「……」
「私、ほんとに一人でも大丈夫、だよ?」
一応そう、言ってみるが、
「ううん、僕が送る」
「わかった」
言ってもきかないのなら、従おう。そう思って私は靴を履いた。
途中、翼は何を話すわけでもなく、ただ私と一定の距離を保って、一緒に歩いてくれた。
私も一体何を話したらいいものか思いつかず、ずっと黙ってた。
角を曲がればスーパーに着く、というところで、翼が急に止まり、
「僕、ここまでしか行けない。帰りもまたここまで迎えに来るから。それじゃ、行ってらっしゃい、慧さん」
そういうと、踵を返して今来た道を戻り始めた。翼は一体どうしたんだろう。