第2章 分からない人
その日は何度も抱かれて、私はもう動けなくて、ベッドにうつ伏せに倒れていた、と言ってもいい。
ぐったりという言葉がぴったりだと思う。
意識は、何度か途中でなくしたけれど、今は疲れと余韻でふわふわしている。
シャワーの音が止まり、中からバスタオルを腰に巻いた状態の碧棺さんが、濡れた頭にタオルを被せながら出てくる。
ソファーにドカッと座り、タバコを取って火をつけた。
正直、タバコはあまり好きじゃないけれど、碧棺さんが吸う姿は嫌いじゃない。
何をやっても似合ってしまう。
迫力が凄くて顔も怖いし、話し方は乱暴だし偉そうだし。だけど、地位もあって強くて、意外に優しくて、顔がよくておまけにセックスも上手い。
そりゃ、モテるだろうな。
考えれば考えるほど、やっぱり私を相手にする理由がさっぱりだ。
好奇心、か。
よく言う【毎日同じメニューを食べてたら、たまには違うものが食べたくなる】とか何とか。
多分そんなものなんだろうな。
神様は不公平だな、全く。
色々考えながら、ボーッと碧棺さんの方を見ていると、不意にスマホから目を離した碧棺さんと目が合う。
まさかこちらを見るとは思わなかったから、突然の事にビクリと体が跳ねた。
「お前……その、人の顔ジッと見んの、癖か?」
「あ、えと……すみません、無意識です……」
言われると、見ちゃいけない気がして、急いで目を逸らす。
静かになった部屋に、碧棺さんのタバコを吸う音だけが響く。
だいぶ気だるさがなくなった頃、ふと気になった事があったので、体を起こして碧棺さんの方を向いて座る。
もちろん、シーツを体に巻くのを忘れない。
「あの……聞いてもいいですか?」
「あ? 何だ?」
タバコの煙を吐きながら、鋭い目がこちらを見る。
睨んでいるわけじゃないだろうけど、ちょっと怯んでしまう。
「お金っ……持って逃げた、お金って、幾ら、なんですか?」
「あぁ、んな事か。言ってなかったか?」
タバコを一度吸い、まるで小銭を口にするみたいに、軽く「3250万」と言った。
あまりの衝撃に、座りながらフラついてしまう。
そんな高額のお金を、私の体だけで返せるはずがない。