第5章 〔左馬刻side〕
痛む体を動かしてタバコを取り出し、火をつけようとするけれど、なかなか上手くつかない。
舌打ちをした俺の目の前に、ライターから出た火が現れる。
がライターをつけて、俺に差し出している。
何をしているんだ、お水かよと思いながらも、タバコに火をつけた。
「吸うか? それあんなら、吸うんだろ?」
「あ、いえ、これは……私のじゃなくて、一緒に、いる人の、で……」
ああ、彼氏か。いい女には、男がいるのは当たり前かと、に分からないように苦笑する。
つい、こいつが欲しいなんて、俺らしくない事を思ってしまった。
「つか、お前、帰らなくていいのかよ。それ、酒だろ」
「あー、はい。頼まれてたの、忘れてました」
そう言って、困ったように笑う顔が、今でも鮮明に思い出せる。
この頃にはもう、殴られていたのか。眼帯の原因も恐らくそうなんだろう。
この時の俺にもっと力があれば、アイツをもっと早く助けてやれたはずだった。
そこから数週間後、俺は火貂組に入り、着々と若頭へ登り詰めた。
そして、忙しい毎日の中、俺はある話を聞いた。
組の金を持ち逃げした組員がいると。そして、目の前に、が現れた。
久しぶりに見たは、あの頃より痩せていてボロボロで、諦めの色を濃くした目で俺を恐る恐る見ている。
それなのに、綺麗で可愛いのは、あの頃から全然変わらなかった。
やっぱり、俺はこいつが、が欲しい。
が手に入ると思っただけで、体中が熱くなって、頭がイカれたんじゃねぇかって思うくらい、時と場所なんて考えずに、夢中で抱いた。
体中に痣や傷、火傷の痕が無数に広がり、俺は男を殺してやりたくなった。
は自分の体を汚いと言ったが、俺にとっての体は、想像以上に極上で、まるで盛りのついた猿みたいになっていた。
俺は医者じゃねぇから、治してやれねぇ。それを補うかのように、体中にキスマークをつけた。
一緒にいればいる程、俺はに溺れ、柄にもなく嫉妬なんて感情が生まれるくらいには、確実に惚れていた。
四六時中の事ばかり考えてしまう。