第4章 ヤクザと生贄彼女
確かに、私は彼には釣り合わない。そんなの、言われなくても最初から分かってる。
そう思ったら、笑えてくる。
「ふっ……はは……あはははっ……」
「な、何が面白いんだよっ!? あんたイカれてんじゃないのっ!? ほんと、気持ち悪いっ!」
そう言って、その人が手を振り上げるのをただ呆然と見ていた。
「やめるんだ」
突然現れて彼女の手首を掴んだのは、やたらと長い髪をした綺麗な男性だった。
その人の手を振り払い、女性は走り去ってしまった。
「君、大丈夫かい?」
「はい……ご迷惑お掛けして、すみません……」
ふわりと体にコートが掛けられる。
「い、いいですっ! コートが汚れちゃいますっ!」
「遠慮しなくていいんだよ。ただ、少しいいかな?」
優しい声で笑いかけられ、今更痛みがやってくる。
「私は医者でね。体、見ても構わないかい?」
彼の何処か安心させる声と雰囲気に、私は頷く。
上の服をはだけさせて、体を調べ始める。
「この赤い内出血には……とりあえず触れないようにした方がいいかな?」
「あ……そうしてもらえると、助かります……すみません……」
「いや、構わないよ。それにしても、痣は消え始めているけれど、この傷といい、火傷の痕といい……これはキスマークの人に?」
聞かれ、私はすぐに首を横に振って否定する。
「違いますっ! これは、元彼に……」
「そう。じゃ、今は何もされていないんだね?」
「はい」
それはよかったと柔らかく笑う。
一通り調べられ、服を丁寧に整えてくれる。
「さぁ、立てるかい?」
手を借りて、立ち上がる。
「そういえば、自己紹介がまだだったね。私はシンジュクで医者をやっている、神宮寺寂雷だ。君の名前を聞いてもいいかい?」
「あ、はい。私はです。助けていただいて、ありがとうございました」
私が頭を下げると、また優しく笑う。
「君が良ければ、送らせてくれないかい? それとも、どこかへ行くはずだったかな? さすがにその格好では今からどこかへと言うのは、難しいんじゃないかな?」
確かに、ボタンが外れたこの服では、買い物は無理だ。
お言葉に甘えて、送ってもらう事にした。