第4章 ヤクザと生贄彼女
神宮寺先生の隣に並ぶと、物凄く背が高いのが分かる。
「シンジュクのお医者さんが、どうしてヨコハマに?」
「あぁ、少しこっちで集まりがあってね。そうだ、もし君がよければだけど、その体の傷を見てもらえるよう、専門の医者を紹介するけれど、どうする?」
さすがお医者さんだ。顔が広いんだな。
でもそんな事考えた事もなかった。そんな事、可能なんだろうか。
「完全に治るかは分からないけど、少しでもよくなるなら、その方がいいからね」
本当に、どこまでも親切な人だ。こんな人も存在するんだな。医者という職業が天職なんだろうな。
とりあえず名刺だけもらって、考える事にした。
マンションの近くに着くと、見覚えのある車が目に入る。
あの車は、左馬刻さんだ。マンションの入口に、左馬刻さんがいる。
物凄く、不機嫌だ。いや、あれは不機嫌どころじゃないかもしれない。
眉間に物凄い皺が寄っていて、スマホを耳に当てている。
赤い目が、私を捉える。
物凄い勢いでこちらへ歩いてくるけれど、神宮寺先生を見て、疑問の張り付いた顔をした。
怒りは、見えない。
「おや、左馬刻君じゃないか」
「先生……何であんたがここに……。つか、何でと」
「知り合いかい?」
神宮寺先生が経緯を説明すると、また左馬刻さんの顔が険しくなる。
「だからスマホに気づかなかったのか?」
スマホが入っているポケットを探るけれど、あるはずの感触が手に当たらない。
「さっきの場所に落としたのかもしれないね」
「私、取りにいっ……あたっ!」
「馬鹿かテメェは。んな格好でウロウロする気かよ。俺が行く。お前は家入ってろ」
頭を小突かれてしまった。その部分を撫でると、隣で神宮寺先生がクスリと笑う。
場所を聞いた後、車を置いて歩きで行ってしまった左馬刻さんを見送りながら、神宮寺先生が口を開く。
「左馬刻君は、よほど君が大切なんだね。あんな左馬刻君を見るのは、初めてだよ」
「先生の気のせいですよ。私と左馬刻さんは、そんな関係じゃ、ないから……」
自分で言っていてちょっと悲しくなる。
頭にふわりと神宮寺先生の手が乗って、見上げると優しい笑顔があった。
「君を見る時の目と、その赤い印を見れば分かるよ」