第3章 飼われた鳥は自由か不自由か
私を抱き終わって、タバコを吸う今でも、不機嫌さは治っていなくて、私はただ隣に座って待っている。
「お前、経験人数は?」
突然の変な質問に、ぽかんとして左馬刻さんを見る。
「何人の男とヤったか聞いてる」
「あ、えと、あの人と、左馬刻さんで、二人……です」
「は?」
何だろう。物凄く驚いている。そんなに経験してるように見えるだろうか。
どちらかと言えば、私はそこまで遊んでる系には見えない方だと思ってるんだけど。
地味だし。
タバコ片手に口を開けて固まる左馬刻さんに、私は苦笑する。
「私、そんな経験豊富には見えないと思うんですけど」
「まぁな。つー事は、だ」
またタバコを一吸いする。
「じゃ、お前のそのスキルは、あのドクズ野郎が仕込んだって事かよ」
「は、はは……まぁ、あの人といたら、覚えざるを得なかったので……」
苦笑して、嫌な記憶を消すように、目を閉じて膝を抱えて左馬刻さんから目を逸らした。
「おい」
「え、あ、はい……んっ……」
呼ばれて振り向くと、後頭部に手を添えられて引き寄せられた。
引き寄せる力の強さに比べると、されたものは思ったより優しいキスで。
「ふっ、んっ……はっ……ぅ……」
「クソっ……気に入らねぇ……」
「はぁ……何っ……」
何も答えずに左馬刻さんは立ち上がる。
意味が分からず左馬刻さんを見上げていると、赤い目がこちらを見る。
「おら、立て。行くぞ」
立ち上がりながら、目的地について質問するけれど、左馬刻さんの口から出た言葉は、私の自宅だった。
電話をし、明らかに高そうな、大きめの車が到着すると、二人で後部座席に乗り込む。
運転席には、ホテルで私を起こした人がいた。
隣では、左馬刻さんがかなり近くに座って、私の肩に腕を回しているから、身動きが取りにくいし、タバコの匂いと混ざって、いい匂いがする。
チラリと左馬刻さんを盗み見ると、窓の外を見る首筋には、何か見える。
無意識にそれに触れる。
「何だ……お前から触ってくるとか、まだヤり足りねぇのか?」
「ち、違いますっ! 怪我、してるから。少し切れて血が……」
微かにだけれど、切り傷みたいなのがある。少し血が滲んでいる。