第2章 分からない人
今度会ったら聞いてみようと思いながらも、都合のいい仕事はないかと、街をブラブラしてる時だった。
「ゆ、許してくれぇーっ!」
「俺様のハマで、ナメた真似してしてんじゃねぇぞ、あぁっ!?」
聞いた事のある賑やかな声が、私の耳を刺す。
見ると、少し人集りが出来ている。
男の人を足蹴にしている碧棺さんがいた。
「はい、ストップストップストップ。左馬刻、その辺にしとけ」
「うむ、やりすぎだ、左馬刻」
眼鏡をかけた男の人と、軍服を着た男の人に諭されている碧棺さんがいた。
顔はいつもより更に不機嫌そうだ。
こういう時はあまり触れない方が良さそうだ。
が、そうはいかないようで、神様は意地悪だ。
「お前……」
「あ、えと……こんにちは?」
見つかってしまった。
そっとしておいてはくれないようで、不機嫌な碧棺さんがこちらに歩いてくるのが見える。
特に悪い事してる訳じゃないのに、まるで今から怒られるのだというような気持ちになる。
「こんなとこで、何してる?」
「えと……」
さっきより眉間に皺を寄せて問われ、仕事の話を聞いてみた。
が、何が地雷だったのか、もっと不機嫌に拍車が掛かった。
何故だ。そこまで怒らせるような事だったのか。
「あぁ? お前、こんな場所で仕事するつもりなのかよ」
こんな場所とは、どういう意味なのか分からず首を傾げると、碧棺さんがため息を吐いた。
「分かんねぇで来たのかよ……」
言われ、ちゃんと周りを見る。
おっと、これは。騒がしい事しか気にしてなくて、場所をちゃんと見てなかった。
ここは俗に言う【風俗街】だ。
大人のお店がある場所だった。
「あ、いや、ち、違いますっ! ここに来たのは、騒ぎが気になっただけでっ……」
「ならいい」
「でも、あの、私がこういう店って、やっぱり無理があるんでしょうか?」
別に行く気はないけれど、ただ素朴な疑問だっただけなのに、碧棺さんの機嫌を損ねたみたいだった。
「……あ? 何言ってんだ、お前」
「へ……ひあっ!?」
突然肩に担がれた。スカートを履いているから、咄嗟にお尻を押さえる。
「おい、左馬刻っ!」
「誘拐か?」
「んなわけねぇだろ。そっちは任せる」