第1章 出会いは貴方が仕掛けた罠
人生で初めて吐いた嘘が、こんなにも自分を苦しめるなんて、思いもしなかった。
理鶯さんと別れ、私は途方に暮れながら街を歩く。
また、何も無い。
あれだけ温かかった気持ちすら、今は冷たくて、寒い。
足が震え、体温がどんどん下がり、クラクラしてくる。
人気のない場所を探して、暗くて狭い路地へと足を向ける。
自分の体を抱きしめて、座り込む。
立っていられない。
私は、死ぬのが怖いんだ。
あれだけ生きるのが嫌で仕方なかったのに、今は。
「……理鶯……さっ……」
私は、貴方の傍で生きていたいんだ。
我ながら単純で、チョロいなと自傷気味に笑う。
「あれー? おねーさんそんなとこで座り込んでどうしたのー?」
「気分でも悪いなら、俺らが看病したげよっか?」
背後からする声に、振り返る。
「やべ、めちゃ美人じゃん。俺らツイてるっ!」
「おねーさん泣いてんの? 俺らが慰めたげるよ」
いかにもチャラチャラした二人組の男が、ニヤニヤといやらしい笑顔で近寄ってくる。
片方の男が私の腕を掴んだ。
「ほら、立ってー。それとも、外のがいいの?」
「それいいな。俺、そっちのが興奮するわ」
勝手に話が進む中、もうどうにも出来ないと思った私には、抵抗する気すら起こらなかった。
路地の奥へ連れて行かれ、私は冷たくてお世辞にも綺麗とは言えない、地面に寝かされる。
〔これでもう……本当に、理鶯さんには……会えないな……〕
絶望を超えたら諦めが訪れる。
このまま、殺してくれたらいいのに。
ブラウスのボタンが外されていくのを、まるで他人事の様に見ていた。
〔理鶯さん……〕
どうしたって、彼の優しい笑顔と手の温もりが思い出されて、今触れている男達の気持ち悪さに鳥肌が立つ。
「はい、ストップストップストップっ!」
突然の大きな声に、目が覚める思いでそちらを見る。
「お前ら、俺のハマで何やってくれてんだ、あぁ?」
知らない人が二人。その後ろには、私がずっと求め続けた人。
「ひっ! 碧棺……左馬刻っ……」
「あぁっ!? 左馬刻様だろーがっ! てめぇ……死んどけや……」
近づいてくる大きな影が、涙で滲む。