第1章 出会いは貴方が仕掛けた罠
理鶯さんの腕の中で、私は眠ってしまったらしく、気づいたらもうすっかり明るくなっていた。
テントに理鶯さんの姿はない。
微かに理鶯さんの香りがする毛布を抱きしめる。
これ以上迷惑かけられないし、何よりこれ以上一緒にいたら、私は理鶯さんから離れられなくなる。
それは、本当に駄目だ。
髪を整え、テントから出ると、理鶯さんの背中が目に入る。
しばらくその広い背中を見つめていると、体がこちらを向いた。
「起きたか」
「お、はよう……ございます……」
昨夜の失態が思い出されて、今更恥ずかしくなる。
「よく眠れたみたいだな。昨夜より顔色がだいぶ良くなっている」
近づいて、私の頬に理鶯さんの大きな手が触れる。
スルリと撫でられ、体がビクリとする。
それを知ってか知らずか、理鶯さんは私の頭に軽くポンと手を置いた後、すぐに背を向ける。
近くの川で顔を洗い、伸びをする。
清々しい気分で空を見ると、青空が広がっていて、こんなにゆったり空を眺める事なんてなかったから、新鮮な気分だった。
理鶯さんが用意した朝食は、昨夜とは違い、普通だった。
魚が出てきた時には、普通の事なのに何だか変な気分だった。
食べ終え、淹れてもらったコーヒーを啜りながら、どうやってここを離れようか考えていたら、理鶯さんが口を開く。
「街に下りるなら、小官も一緒に行こう。また迷ったら大変だからな」
どうしよう。
街に行く気がないなんて、口が裂けても言えない。
言い訳が思いつかなくて、口を開いては閉じを繰り返すけれど、言葉は出なくて。
必死に頭を動かして、出た答えは、理鶯さんと街まで下りて、違う方法を考えよう。
場所を変えるのもいいし、とにかく理鶯さんから離れなきゃ。
お言葉に甘えて、私は理鶯さんと森を抜けて街へ戻った。
また何処かでと頭を下げ、理鶯さんに背を向けると、手首が掴まれる。
「小官はずっとあそこにいる。いつでも来るといい、遠慮はいらない」
何で最後まで優しいのか。こんなんじゃ、離れがたくなるじゃないか。
涙が出そうになるのを我慢し、理鶯さんに出来るだけ明るく笑顔を作る。
「ありがとうございます。また、行かせてもらいますね」
嘘だ。