第1章 出会いは貴方が仕掛けた罠
両手で挟むようにカップを受け取ると、理鶯さんも少し近くに座る。
コーヒーの香ばしい香りが鼻を刺激し、ホッとする。
ホッとしたら、鼻の奥がツンとした。
ダメだ、今は、泣いちゃダメだ。
涙を我慢するように、唇を噛む。
「あまり感心しないな。強く噛むと、唇に傷がついてしまう」
優しく顎を掴まれ、唇に親指が滑る。
理鶯さんを見ると、少しだけ眉が下がっていた。
心配してくれているのが分かって、もう耐えられなかった。
人の優しさに触れたのは、いつぶりだろうか。
耐えきれなくなった涙が、目からボロボロ流れ出す。
「あ、ごめっ、なさっ……私っ……」
「いや、構わない。泣きたい時は、好きなだけ泣けばいい」
嗚咽を漏らして泣く私を、理鶯さんの大きな手が肩に触れて、優しく抱き寄せる。
逞しい胸で、私は久しぶりに思い切り泣いた。
私が泣き止むまでずっと、理鶯さんはただ黙って付き合ってくれた。
落ち着いた頃、髪を撫でていた手を止めた理鶯さんが、私の顔を覗き込んだ。
「もう、いいのか?」
「はい……みっともない所を見せて、すみません……ご迷惑かけてしまって……」
「構わない、落ち着いたのならよかった」
微かに笑った顔が優しくて、また胸が高鳴った。
「腹は減ってないか?」
「あ……そういえば……」
今日は朝から何も食べていない事に気づいて、それに気づいたら体は正直になる訳で。
――グゥゥー……。
私のお腹の音がやたら大きく聞こえた。
恥ずかしくてお腹を押さえながら、隣の理鶯さんを見るけれど、特に気にした様子はなく、焚き火を弄っている。
立ち上がって何かしていた理鶯さんを見ながら、私は首を傾げた。
「さぁ、たくさん食え」
「っ!?」
出されたモノを見て、私は固まる。
見た事がない食材が、調理されて並んでいた。
いや、これはそもそも食材なのかすら疑問だ。
私の記憶が確かなら、これはカエルだろうか。
「……あの……いつもこういうの、食べてるんですか?」
「まぁ、手に入る食材によるが、だいたいはそうだな」
でも、ここまでよくしてもらって、せっかく用意してくれたものを、断る事なんて私には出来なかった。