第1章 出会いは貴方が仕掛けた罠
ちゃんと挨拶を返してくれる辺り、律儀な人なのだろうか。
「しかし、こんな所でこんな時間に女性が一人で何をしている? 登山……ではなさそうだな。格好が不釣り合いだ」
的確に分析され、私はただ呆然としてしまう。
「まぁ、話は後だな。とりあえず待っていろ、今降ろす」
ゆっくり丁寧に網が降ろされる。
解放され、草と土まみれの足を払い立ち上がろうとした。けれど、立てなかった。
「どうした? 怪我か?」
「あ、えと……だ、大丈夫ですっ! ちょっと足首を捻っただけで……」
「うむ……そうか。それは大変だ。捻挫を甘く見てはいけない」
座り込んでいる私の目の前にしゃがみ込んだ。
間近で見ると、更に綺麗なのが分かる。
吸い込まれそうなガラスの様な目が、私の足首に注がれていて、妙に緊張してしまう。
こちらに目を向けた彼の手が、私の髪に触れる。髪に付いた葉っぱをわざわざ取ってくれて、少しドキっとする。
「すまないが、少し我慢してくれ」
「え……わっ!」
彼が後ろに回ったと思った瞬間、脇と膝裏に腕が差し込まれ、横抱きにされていた。
服の上からでも、彼の体の逞しさが分かる。
何だか、いい匂いもする。
彼と同じで、優しい香り。
そのままあっという間に、険しい場所から道に出る。
「慣れてるんですね」
「あぁ、ずっとに森にいるからな」
森。あれ、私山に登ったつもりだったんだけど、いつの間に森にいたのか。
自分の方向音痴が、こんなに酷いとは知らなかった。
少し歩くと、テントと明かりが見える。
「あの……ここは……」
「小官はここで生活している」
変わった人だな、そう思った。
元軍人さんらしく、迷彩服が良く似合っていて、ハーフだという。
「毒島メイソン理鶯だ」
「です」
軽い自己紹介をした。
何か、変な感じになってしまった。
「これを羽織るといい、夜は冷える」
大きめの布地の物で体を包まれる。
暖かい。そして微かに理鶯さんの香りがした。
そして、次にコーヒーを渡される。
「飲め、中からも温まるはずだ」