第1章 出会いは貴方が仕掛けた罠
私は今から、命を粗末にしに行く。
できるだけ山奥を目指して、慣れない山道を登っていく。
冬が近くなって来て、寒さも少し際立ってきた季節に、私は誰が見ても薄着で、明らかに山登りには相応しくない格好で山道を登る。
今となっては、格好なんてどうだってよかった。
だって、もう私は人生を終わらせに来たのだから。
怖くない。今は、消えてなくなれればそれでいい。
まだ希望はあると思いたいのに、それを考えるのも億劫で、生きている方が辛い。
今まで自分のしてきた事は間違っていたのだろうか。自分では、やりたい事もせずに、唯一の家族の為に、がむしゃらに頑張ってきたつもりだった。
勝手にしたのは私だから、そう言われたら何も言い返せないけれど。
それにしたって、結果がこれでは、あまりにも酷すぎる。
クビになった時に、婚約者も家族も、友人すらみんな離れて行った。
私を信じてくれる人は、誰もいなくて。
私の味方は誰もいないと知った。
私には、何もない。
もう、どうでもいい。
山道を適当に歩き回り、道という道すらなくなってきた頃、私は疲れてフラフラになり始めていた。
この疲れとも、今日で終わりかなんてボーッと考えている私の足が何かを踏んだ。
「え……ぅあぁあーっ!」
何を踏んだんだろうと見る暇すらなく、私の体は宙に浮いた。
「……ぃたた……何……網?」
何かの映画で見た事がある、堅い縄のような網の中にすっぽり包まれ、完全に罠に掛かった獲物状態だった。
「何でこんなところにこんな物が……」
普段生活していて、こんな物に遭遇する事なんて絶対ないだろう。
――ガサガサッ。
突然音がし、影が現れる。
日が落ち始めていて、少し見えにくいけれど、男の人だと言う事は分かった。
凄く、大きな人で、まるで軍人の様な格好をしている。
〔綺麗な……顔……〕
外人さんだろうか、それともハーフだろうか、とにかく凛々しくて綺麗な顔の大きな男の人が、こちらを濁りのない目で見つめてくる。
凄く、見られている。
「こ、こんばんは……?」
「あぁ、こんばんは」
想像より低くて小気味よい声が、耳を優しくくすぐった。