第1章 チョコが欲しい
義理として渡したとして、善逸ならば大げさに喜ぶだろう。気の毒だと思って義理を渡した女子に勘違いをかましたとして、その女子に本命がいた場合あらぬ誤解を招きそうだ。それではせっかくの楽しいバレンタインデーがトラウマものになりかねない。現時点で本命が居ない華が周囲から誤解を受けようと特に気にしない。だから“万事解決”になるのだ。
「今年のバレンタインデーは月曜日だし、作ろうと思えば作れるじゃん」
金曜日に砂糖で煮る工程をしておけば大丈夫じゃない?と麻衣はあっさりと言い放った。3日もかかるバレンタインチョコなんてガチすぎて華は少し迷っていた。顔に出ていたのだろうか、麻衣は自分のスマホを取り出して何やら調べ始める。
「1日乾燥で作れるレシピもあるみたいだよ、これなら土曜日に作って乾燥させれば日曜日にはラッピングできそうじゃない?」
「本当だ。日曜日にラッピング完了するなら月曜日に渡すことできるね」
ズイッとスマホを華に見せた麻衣は「でしょ?」とドヤ顔。それでもレシピを読み込んで作るのは華だ、レシピを調べただけでドヤ顔になった麻衣に乾いた笑いを向けた。
でも、これでレシピが決まった。麻衣は土曜日は夕方からバイトがあるということで午前中に乾燥工程まで終わらせる算段で計画を立てていった。
「それにしても…」
麻衣の少し呆れた声に、計画をスケジュール帳に書き込んでいた華は顔を上げる。
「柑橘系が好きなのは知ってたけど、よく見ると持ち物の色も柑橘系というかビタミンカラーのものが多いよね」
「…確かにそうかも」
今手に持っているペンもポーチも、カバンに付いているキーホルダーも確かにビタミンカラーだ。華自身、それほど気にして買っていた訳ではなく、麻衣から言われて気付いた。
「ビタミンカラーって元気になる色って言うし、自然と目に付きやすい色だからかな。つい買っているのかも?」
「柑橘系の色が好きなのか、柑橘系が好きだからその色が好きになったのか…どっち?」