第1章 チョコが欲しい
華の手からスルリとペンを取り、ペン回しを始める麻衣の問いかけに「そういえばどっちだろう」と考えながらペンを取り返し筆箱に仕舞うと授業の始まりを告げるチャイムが鳴る。次の授業は歴史だ、今日こそは騎馬戦など始まらないよう願いつつ教科書を準備し教師が教室に入ってくるのを生徒たちは待った。
そうこうしているうちに、ガラリと勢いよく扉が開き「着席!」と大きな声が教室内に響く、入ってきたのは教師の人気ランキング上位の煉獄先生だ。赤い毛先の黄色い髪、猫のように吊り上がり気味の目。華は煉獄の姿を見てハッと気付いた。
確かに柑橘系のフルーツは大好きだし、ビタミンカラーも好きだ。
けれど、これ程にビタミンカラーを集め始めたきっかけは確か…
「高野!分からない事があれば聞くと良い!」
横から聞こえた大きな声にビクリと肩を揺らした華は今は授業中だったと思い出す。
小さく「すみません、大丈夫です」と言うや否や、周囲の視線を一手に集めていることに気付いて俯くしかなかった。
「煉獄先生の授業で上の空になれるなんてある意味凄いよ」
「うぅ…ちょっと考え事してたんだってば~。恥ずかしいぃぃ!」
ざわつく教室内で頭を抱える。麻衣の指摘に先程の皆の「あちゃー」というような視線の数々を思い出し恥ずかしさに悶絶した華はそのまま机に突っ伏した。黒く長い髪から覗く耳が真っ赤になっていて麻衣は思わず笑ってしまう。
「…っと、今日もバイトなんだった。それじゃ華、これ貸してあげるから元気だしなよ!」
そういって何かで華の頭をパシンと叩くと、麻衣は教科書をカバンに仕舞い教室を出て行った。入学してすぐに駅前のカフェでバイトを始めたと聞いているが、華はまだ一度もカフェに行っていない。紅茶とケーキが美味しいと評判なので機会があれば行ってみたいとひそかに思っている。
手に取った何かは先程の歴史の授業のノート、華は麻衣に感謝すると同時に溜息を吐いた。