第3章 突撃訪問
チョコを渡すって約束した。
それなのに私は何してんだろう。
喜んで貰えるの確定なのに。麻衣が言っていた言葉を思い出す。
ついさっきまでは確定だった、自分の気持ちばかり守ろうとして口をついた言葉で善逸を傷付けてしまった今では何事も無かったようにチョコを渡せない。
「...ごめんね」
「え?」
先に謝ったのは善逸だった。華は俯いていた顔を上げると隣には笑顔の善逸がいた。けれど、それは先程見た「気にしないで」と言った時の笑顔。
「ほら、俺ってこんなんだからさ!チョコ貰えるってだけで浮かれちゃって。華ちゃんは麻衣ちゃんが獪岳に渡せるように動いてただけだもんね。勘違いしちゃって恥ずかしいよね俺!」
ははは、と声を上げて笑いながら頭をかく善逸。
こんな顔をみたいわけじゃないのに。
「違うの!...我妻君は何も悪くないよ。渡すって言った私が意気地無しだからこんな事になってる」
謝るのは自分なのに、それなのに気を使って謝る善逸に華は渡すことを躊躇う自分が情けなくなる。
「遅くなったけど、用意してなかったとかそういう訳じゃないの」
そう言って鞄からラッピングされたチョコを出す。
「...この前スーパーで会った時に我妻君にもチョコ作るって話したよね。その時に驚いてたでしょ」
「へ?うん、そりゃ驚くよ」
善逸の即答に華は苦笑する。
自分も驚くと思う、欲しいと言ってもいない人間にチョコを作ってあげると言われてもなぁと。ましてや自分に興味の欠片も無さそうな反応ばかりだった人間からそれを言われるなんて反応に困るだろうと。
「だって、わざわざ俺の分作ってくれるなんて思って無かったし。それに俺にチョコ渡したら本命がいなくても周りから変に見られない?? 」
そう言って苦笑する善逸に今度は華が驚く番だった。
「変って...。そんなこと気にしてたら作るなんて言わないよ。私はてっきり...」
「てっきり、何?」
ホッとした表情のあと、不思議そうに首を傾げる善逸に華は昨日の麻衣の言葉を思い出した。
聞いて見なきゃ分からない、と。
「あの時驚いた意味って本当は迷惑なのかなって。よくよく考えれば欲しいとは言って無かったし、余計なお世話になるくらいなら渡さない方がいいのかなぁとか考えてた」