第3章 突撃訪問
その表情にさせたのが自分だと気付いた華は嘘でも笑顔が作れなかった。今日は善逸にチョコを渡して喜んで貰えるように頑張る日だったのに、何でこんなことに。と。
「今日は帰った方がいいんじゃねぇ?」
呆れたように溜息混じりで獪岳が言葉を発した。
確かにこの状態では悪い方向へと転がるばかりだと誰もが予想できた、勿論華自身も。
「...っでも」
今日じゃなければ意味が無いのに。そう言いかけた華の様子に気付いた獪岳は一つの提案を口にした。
「すみませんでした、稲玉先輩」
「いや、それにしてもあんたも大変だな。あいつ...善逸並にヤバいんじゃねぇか」
麻衣は獪岳と並んで夕闇の道を歩いていた。麻衣と華の家は離れている、善逸の家から途中までの帰路は一緒だが大通りまで出るとそれぞれ別の道になる。先程大通りで善逸と華は反対方向へと歩いて行き、今は麻衣と獪岳の二人だけだ。
思いがけないチャンスとなり麻衣は心中大荒れだったが、先程の華のやらかしを思い出すと少し落ち着く。
「いえ、華も普段はあんな感じじゃないんですけれど」
麻衣がそう言うと獪岳は一人頷き呟いた。善逸のせいか、と。
「あれ?先輩気付いていたんですか?」
「前にスーパーで会ったことあったけど、善逸にチョコ作るって言ってた時は義理っぽかったから今日の態度は不思議すぎんだろ」
バレンタインの三日前、スーパーで出会った時の態度を思い出しても今日のような変な意識は見えなかった。それに墓穴を掘ったとしても軽く対応していたと記憶している獪岳からすると善逸がなんかしたのか?と考えが至り「あのバカ...」と舌打ちをした。
「あ、我妻君が何かしたとかそんなんでもなく、スーパーで華と会った時は華自身何も気付いて無かっただけなんです」
「は?気付いてない、って...嘘だろ?」
麻衣と獪岳が華の態度について考察している一方、本人と善逸はというと...
気まずい...
「...」
華は先程の態度の悪さも謝れないまま、隣を歩いている善逸の顔も見ることが出来ずただ俯いて歩いていた。気まずさを感じ取っているのかいつもは賑やかな善逸も何も話してこない。