第3章 突撃訪問
私も頑張らなきゃ。
華のカバンの中には善逸に渡すためのチョコが入っている。結局、放課後に一緒に行こうと言われた以上無理に学校で渡す必要も無いと諦めたのだった。かといって善逸の家でどういうタイミングで渡すかなんて皆目想像もつかない。
「ただいま~。獪岳起きてる?」
「なんだよ。うるせぇな…」
面倒くさそうに茶の間から顔を出した獪岳。確かに体調不良という感じではなく華はホッとした、隣を見ればガチリと固まる麻衣。それを知ってか知らずか善逸は「上がって上がって」と二人を茶の間へと手招きする。
「ど、どうしよう。やっぱやめようかな…」
「いやいや、あげなきゃ始まらないって言ってたの麻衣じゃん」
「う゛っ…」
昨日と逆転した立場。なるほど、自分じゃなければ随分冷静にすべき行動が分かる。
自分のこととなると何故こうも判断が鈍るのだろうか、なんだか妙に可笑しくなる。
「なによ、他人事みたいに笑ってるけど華だって我妻君にまだチョコ渡してないんでしょ?」
「う゛っ」
今度は華が呻く番だった。獪岳がちらりと華に視線を向けると何も読めない瞳なのになぜか言いたいことが分かった。まだ渡していないのか、と。
先日スーパーで会った時の会話を覚えていれば華が善逸にチョコを上げようとしているのは察するだろう。頑張って渡さなければ、麻衣に発破かけておいて自分は渡せませんでした、なんて笑えない。
「ごめんね、お茶しかなくて…うち、じいちゃんと獪岳と俺の三人だから」
そう言って申し訳なさそうに湯呑みを各人の前に置いていく善逸。ふわりと香る日本茶の香りと湯呑みから伝わる温かさに先程までテンパっていた心が穏やかになっていく、隣の麻衣も同じように表情をホッと緩めた。
「こちらこそ、急にお邪魔してゴメン。稲玉先輩もスミマセン」
チラリと獪岳を見れば湯呑みに口を付けた瞬間眉をひそめている。どうしたのだろう、と思った瞬間に善逸が「あぁ!ごめん」と声を上げ、チッと舌打ちをした獪岳は湯呑みを善逸に押し付ける。
…まさかの猫舌?
見た目とのギャップに華は一瞬フリーズした。その視線を感じたのか獪岳はフリーズした華に向けて爆弾を落とした。表情はいつもの通り涼しい顔で。