第3章 突撃訪問
「ね、ねぇ。本当にどうしよう」
「いや、私に聞かれても…とりあえず行くしかないんじゃない?」
月曜日。バレンタインデー当日。
オロオロと顔を青くした麻衣が華の腕に捕まりながら校門でとある人物と待ち合わせをしていた。
「ごめんね遅くなっちゃった!それじゃ、行こっか」
そう言って走り寄ってきた善逸はパッと表情を明るくする。時刻は放課後、今から向かうのは善逸の家だ。
朝から学校全体はザワザワとしていた。バレンタインデーというイベントに女子は勿論男子もソワソワしているのが雰囲気で伝わってきていた。そんな中、華も麻衣も例に漏れずチョコをカバンに潜ませて渡す時期を伺っていた。
「麻衣ちゃん、獪岳は今日は休むって言って学校に来てないんだけど」
麻衣の意中の人間が獪岳だと知っている善逸は教室でこっそりと麻衣に告げた。その事実に麻衣も華も驚きソワソワしていた雰囲気が一気に暗くなった。空気の変わりように善逸はアワアワと困っていたが、何か閃いたように「そうだ!」と声を上げた。
「放課後に俺ん家来る?獪岳居るよ」
その言葉に麻衣はパァッと表情を明るくして二つ返事で了承。よかったよかった、と華が善逸にお礼を言うとなんだか善逸も嬉しそうだった。華はいつ善逸に渡そうか考えていたが、放課後は麻衣と善逸が一緒に帰るとなるとチャンスは昼休みのみ。そう思い至った所でガシリと腕を掴まれていることに気付いた。
その腕の主は麻衣だった。
「一緒に来てくれるよね華」
「…は?」
そんなこんなで今に至る。片腕に麻衣が引っ付いたまま歩いている華は隣を歩く善逸に視線を向ける。
「稲玉先輩は本当に大丈夫なの?」
「ん?別に体調不良じゃないしただのサボりだから大丈夫だと思うよ」
もしかしてバレンタインデーだからサボった?なんて華は思い浮かんだが、それだと隣でオロオロしている麻衣が行くのは迷惑になる。けれどせっかく作ったチョコを渡さずしてバレンタインが終わるのは嫌。きっとその相反する気持ちに麻衣もぐるぐると迷いながら善逸の家に向かっているんだと思うと、渡すだけでもクリアして欲しいと華は思った。