第2章 好きな人とは
「獪岳のそういうとこだよ!そういうとこが女たらし…っうぎゃ!」
獪岳に首根っこを掴まれていた善逸は突然離された手に捕まることも出来ずベシャリと床に倒れ込んだ。遠くでぎゃあぎゃあと言い合いながら去っていく二人を見送りながら思わずため息を吐く。
欲しいとも思っていない人間から貰うチョコなんて迷惑なだけなのかもしれない。
そう考えると先程までのウキウキしていた気分がズンと沈むような気がした。きっと喜んでもらえる、あの笑顔を見せて貰えると思っていた。けれど考え方次第ではチョコをあげる行為は善意の押し付けにすぎないのかもしれない。
「いや、そんなわけないでしょ」
「…ですよね」
そりゃ迷惑だよなぁ、と華が溜息を吐きながら鍋の中で煮えるオレンジに視線を落とす。
湧き上がる湯気とともに甘い香りが鼻をくすぐる、鮮やかなオレンジ色は元気の出る色なのに今はただただ苦しい。
「やっぱりあげないほうがいいのかな」
「いや、あげなきゃ話始まんないし!喜んで貰えるか貰えないかは別として、我妻君は欲しいって言ってたんだから、貰って迷惑だなんて思わないでしょ」
「そもそもそれなんだよね。思い返すとあの時“欲しい”とは言ってなかった、それなのに欲しいって勘違いしてチョコをあげるなんてただの押し付けじゃない?」
最後まで言い終える前に「はぁ!?」と大きな声が上がり華は驚いて麻衣を見やる、そこには怒ったような悲しいような表情の麻衣が立っている。
「…それを言ったら稲玉先輩に渡そうとしてる私は何なの?両想いじゃない人間は好きな人にチョコ渡すなってことになるんだけど?っていうか、女の子からチョコが欲しいって豪語してる分我妻君は貰ってくれるでしょ。世の中貰ってくれるかも分かんないけど頑張って作って渡そうとしている子は沢山いるのに華のその発言は酷いよ」
「え?」
「良い返事とか反応が絶対返って来るわけでも無いし、迷惑かもしれないって思うけどあげなきゃ始まんないの!それに我妻君は女の子からチョコ欲しいって言ってたし喜んでもらえるの確定なのにあげるのやめるって!?贅沢な話だよ」