第2章 好きな人とは
勢い余ったのかぐっと近づいた麻衣に気圧され体を引いた華は、火にかけていた鍋に手が触れ「熱っ」と声を上げる。その声に麻衣はハッと体を引くと「ごめん!」と謝って華の腕を掴むとシンクの蛇口を捻る。
「…私こそごめん。卑屈だった。確かに頑張ってる他の女子からすればものすごく無神経な発言だった」
水が当たる手が冷えていくにつれ頭も冷えたような気がした。どうしてこんなに不安になるのだろうか、華は心配そうに腕を見つめる麻衣に小さな声で謝る。
「分かれば良いよ。頑張って作って喜んでもらいたいんだよ、両想いになれなくても私からのチョコに少しでも喜んで欲しいんだから」
喜んでもらえるだろうか、嫌がられないだろうか、両想いになれるだろうか、振られちゃうかもなんて好きな人が居れば当然の不安なんだ。華はスーパーでの善逸の反応に落ち込んだのか自分でも分からなかった、けれど麻衣の言葉にその答えがあった。
「私、我妻君が好きだからあの時傷付いたんだ」
当然のように笑って「楽しみにしてる」って言って貰えると思っていたのに返ってきた反応は驚いた表情だった。笑顔じゃなかった、だから迷惑なんだと思った。
「好きな人の一挙一動ってつい意味を考えちゃうよね。でもそれって聞かなきゃ分かんないんだよね。華だって我妻君への対応は今までは超が付くほどドライ、塩対応だったんだよ。それを我妻君はいつも聞いていたよね」
俺に興味無いの!?
そう言って青褪めていた善逸。その姿を思い出し今度は華が青褪める番だった。
麻衣にバッと向き直ると「…やばい」と呟くしかなかった。どう考えても好きなんて気持ちは微塵も無い、寧ろ興味ゼロと分かる対応しかしていない、そりゃ好きと自覚したのは今さっきだし自覚していない以上気持ちが出るなんて有り得ないのだが。
「絶対誤解されてんじゃん!!だからあの反応なんだ!?」
ぎゃぁっ!と善逸に負けず劣らずの叫びを上げた華に麻衣は冷静に返答する。
「誤解してる。だからこそチョコを渡して誤解を解かなきゃ」
冷やし終わった華の手を見て頷いた麻衣が顔を上げると、心配そうな表情ではなく少し嬉しそうに笑っていた。