第2章 好きな人とは
「こら!やめろ伊之助!善逸が言ってるように後ろの人達に迷惑をかけちゃ駄目だ。とにかく着る着ないは別として採寸だけはきちんと受けないと入学できないぞ」
声を上げた三人目、そのハキハキした声はこの体育館内にハッキリと響いた。後ろ姿しか見えないが、耳につけたピアスが見えた華はやはり変な集団という認識となる。制服を着たくないとごねる美少年、それを窘めるもあえなく力で押さえ込まれる金髪の少年・紋逸、そしてその三人のおそらく仲介になっているのだろうピアスの少年。どう考えても真面目ではないだろう。
それに、採寸を早く終わらせて帰りたい人間を堰き止めているので周囲の人間がどう思いながらその三人を見ているのか想像に難くない。それをものともせずに騒いでいるのだからあの三人はメンタルが鋼なのかと思う。
「次の人どうぞ」
三人を見ていた華は自分の順番になったことに安堵しパーテーションで区切られた一画へと入って行った。この採寸が終われば自由に帰れる、マンモス校であの三人と同じクラスになる確率など極めて少ないのだ、今後も関わることはない人種なので明日には覚えていないだろう。
しかし、採寸が終わり校門に向かっていると少し先に先程の三人組の姿。採寸が終わったからなのかそれ程騒いではおらず三人並んで帰路についていた。
「おいゴン逸。本当にババァに言うんだろうなぁ!?」
「ババァ何ていうなよ。…分かってるって。今日の夕飯は天麩羅にしてって頼めばいいんだろ?」
「本当に伊之助はヒサさんの天麩羅が好きなんだな。採寸も我慢したし、俺も善逸と一緒にヒサさんに頼むよ」
あの美少年はそんなに天麩羅が好きなのか、なんて考えながらボーっと歩いていたからか華はボフッと何かにぶつかりスマホを落としてしまった。スマホよりも先にぶつかった物を確認しようと顔を上げた華はパチパチと瞬きを繰り返した。
誰もいない?壁もない?
「はい、スマホ落としたよ。大丈夫?」
下から声がして視線を落とした時、目に入った金髪はキラキラと陽の光を反射してまぶしく感じた。穏やかな、少し気弱そうな瞳の主の声を聞いて慌てて謝る。華が善逸の背中にぶつかってしまったのだと気付いたからだ。