第2章 好きな人とは
「な、なんでもない。その、稲玉先輩?はどんな人なの?」
「今そこで項垂れてる我妻君と同居しているお兄さんにあたる人。あ、髪の色は我妻君と違って黒髪だよ」
そう言われて華は黒髪の善逸を想像した。兄となればきっと似ているのだろう、と。そこで「あれ?」と華は声を上げた。
「苗字が違うけど兄弟で、一緒に住んでるの?」
あぁ、それは…と麻衣が口を開いたところで善逸が顔を上げてポツリと言った。
兄弟のように育てられているだけで、育ての親である祖父とも血の繋がりは無いこと、善逸も獪岳も共に両親が居ないこと。それを聞いた華は何と言えばいいのか口ごもってしまう、軽い話題ではないことを突っ込んでしまい少し気まずい。そんな気持ちが表情に出ていたのだろう「割と皆知ってる話なんだけど」と苦笑した善逸が頼んでいたクリームソーダを一口飲む、のせられていたアイスは溶けておりグラスの中の氷がカランと音を立てた。
「寧ろ華ちゃんが知らなかったことに驚き…もしかしてそれだけ俺に興味無いってこと!?」
「え?いや、なんでそうなるの?そんなわけ…」
つと華の口がピタリと止まった。
別に善逸に興味が無いわけでは無い。かといって好きな人というわけでもない。
黙ってしまった華に善逸は見る見る青褪めて「ほんと興味ないの?うそでしょ」と呟いている。
その姿を見ながら華は先日の麻衣との会話を思い出していた。
柑橘系の色が好きなのか
柑橘系が好きだからその色が好きになったのか
麻衣はそう言った。けれど華の中では少し違和感があった。その両方が違うような気がしていた。
ビタミンカラーの物を集め始めたのは高校に入ってからなのだ、その始まりは入学前の制服採寸の時だった。