第2章 好きな人とは
「華が聞きたいことがあるのは分かったんだけど…なんで我妻君まで居るの?」
「え?学生の放課後の寄り道って俺憧れてたんだよねー!それに炭治郎は家の手伝いでさっさと帰っちゃったし、伊之助も夕飯が~って言いながら帰っちゃったし俺暇なんだよね」
「…仮にも女子トークに混ざろうとするメンタルの強さ、すごいね我妻君」
別にいいけど、と言い置くと麻衣はカチャリと飲んでいた紅茶のカップをソーサーに戻し華に視線を向けた。何を聞かれるか分かっているであろう麻衣が善逸に帰れと言わないということは、どうやら善逸が居ようが居まいが気にする内容ではないという事なんだろう。それならば、と華も善逸を気にせずに話を進める。
「麻衣の好きな人のこと、私全然知らなかったよ。同じ学校の人?」
「うん、華はもしかしたら知らないかも?先輩だし」
「へぇ、麻衣ちゃんは年上好きなんだね!」
「言い方…。まぁ、そうなるね」
先輩、確かに部活もしていない華は先輩達で関わりがある人はそう多くない。ましてマンモス校と呼ばれるキメツ学園で麻衣の好きな先輩なんて分かるはずも無い華は善逸の“年上好き”発言に苦笑しながらもどんな人なんだろうかと少しワクワクして次の言葉を待った。
「三年生の稲玉獪岳先輩なんだけどね」
「え゛っ、獪岳ぅぅぅぅう!!?」
突然の善逸の叫びにレモンティーを飲んでいた華は思わず咽せてしまった。
響き渡った声にカフェ中の視線が一気に集まったが、その事に気付いていない善逸は一度は立ち上がった椅子に再び腰掛け頭を抱えて何やらブツブツと呟いている。
「なんで獪岳がモテてるんだよ、俺だってモテたいのに。炭治郎だってモテてるし、伊之助だって何だかんだ美形だからファンは居るみたいだし…。狡い狡い狡い狡い…」
「あ、我妻君?どうし…っひぇ」
覗き込んだ華は一瞬ビクリと身を引いた。血走った目を見開いたブツブツと「狡い」を繰り返す善逸、この姿は誰が見てもこんな反応になるだろう。麻衣の角度からは顔まで見えないのか華が小さくあげた悲鳴に首を傾げている。