第6章 ─ ちぎりきな ─
────なんで……
「と彼が楽しそうに話しているのを見て、周りも美男美女だと微笑んでいたよ。私も、樋口君のような青年と一緒になってくれたらと──」
近いのに、旦那様の声が遠い。
私の心も、見えない何かに蝕まれて。
────どうして……
「それとも他に気になる人がいたかい?うちの社員は皆、性格ともに素晴らしい人材だから、誰を選んでもきっとを大事にしてくれるよ」
何も喋らない私に、旦那様がどう思っているのかは分からない。
だけど……ああ、そうか……と、ようやく理解した。
旦那様が私を招宴に連れていってくれたのは、ただ紹介する為だけじゃなくて。
私の、お婿さんを探すためでもあったんだ。
あれ……おかしいな…私、旦那様が好きなんだけどなぁ……
鼻の奥がツンと痛んで、唇を噛み締める。
耐えるように俯いて、着物をギュッと握り込んだ。
だってそうしないと、今にもみっともないくらいに泣いてしまいそうだったから。
「ももう十八だ。ヤチヨのいうようにそろそろいい相手を見つけないとね。でも強引に進めたりはしないから、がこの人だと思う相手を──」
「旦那様」
それ以上聞きたくなくて、話を遮った。
こんなこと言いたくない、でも……。
「私が…邪魔ですか……迷惑、ですか……?」
声が震えて、言葉の最後は低く掠れた。
こんな方法で誰かに押し付けなくても、言ってくれたら良かったのに。
………私ってホント馬鹿。旦那様の優しさに甘えて、迷惑だって思われてることに気付けなかった。
我慢していた涙が溢れて、ポタポタと着物に零れ落ちる。