第5章 ─ わすれじの ─
「す、すみません……」
「……お嬢様は、時任社長を慕っておられるのですね」
「はい!もう、とっても!」
あ……反省したばかりなのに、私ってば……。
今後こそ呆れられたと思っていると───
「ふっ……ははははは!」
樋口さんは笑いを堪えきれず噴き出した。
『失礼…』とか言って口元を押さえるけど、肩が震えている。
いや、もう笑っていること隠しきれてませんよ?
「あれ…私、そんなにおかしな事いいました?」
「いえ、あまりにはっきりと仰るので……すみません」
そう言ってようやく笑いを収めた樋口さんは、今までよりも砕けた口調で話してくれた。
「先程、社長とお嬢様がダンスをしているところを拝見しましたが、まるで映画のシーンのように素敵でしたよ」
「え!は、恥ずかしいです……私、下手くそだったでしょ?」
「いえ、私もお誘いしたかったのですが、あまりにもお二人がお似合いだったので諦めてしまいました」
「そんな、大袈裟な……でも、ありがとうございます…」
普段誰かからこんな風に褒めらたことがないので、返答に困ってつい曖昧に笑う。
樋口さんて、あれだ……なんだか少し、旦那様に似てる気がする。なんとなく、話し方とか雰囲気が。
あと、甘い言葉をさらりと言うとことか……。
きっとこれで数多くの女性を落としてきたに違いない……まぁ私は旦那様一筋だけれど。