第5章 ─ わすれじの ─
それから一時間ほどで無事に招宴が終わった。
旦那様が上層部の方達と来賓の方をお見送りしている間、私は少し離れたところでその様子を眺める。
「はぁ……旦那様って常に格好いい……」
熱い吐息交じりでそう呟くと、隣にいる樋口さんが小さく吹き出したのが分かった。
しまった。つい気が緩んで、借りてきた猫が逃げてしまった。
旦那様や佐渡さんが私の傍にいられない時に、樋口さんが必ず近くにいてくれたのは、本当に心強かった。
けれど、特に頼ることなく終えたのが、ちょっぴり申し訳ない。
チラっと様子を窺えば、目が合った樋口さんはニコッと笑ってくれた。
どうやら引かれてないみたい……
「そうですね。男の僕でも、社長は格好いい人だと思います」
それどころか一緒に褒めてくれた樋口さんに、一気に気分が上がる。
「ですよね!格好いいですよね!樋口さんて会社でも旦那様と一緒なんでしょう?もうホント羨ましいです!今日みたいに即なく仕事をこなす旦那様や、部下の方達に指示を出す旦那様、はたまた嫌味な方をさらりと交わす旦那様が見られるということでしょう?あ、でも私としたらやはり屋敷にいる時の優しくてありのままの旦那様がいちば……あ」
唖然とする樋口さんに、またやってしまった…と反省した。
いやだって、どうしても旦那様の事になると口が勝手に動いてしまう。
しかも樋口さんもいい人だし、私が何言っても笑ってくれるし、つい親しくしてしまうけど、仮にも社長秘書さんなんだから失礼のないようにしないと。