第5章 ─ わすれじの ─
「ご覧の通りは聡明な子でしょう。恩人である総司子爵からお預りしているのです。大切にしてしまう私の気持を分かっていただけますか」
そして余裕のある笑みを浮かべつつ、男に言い放つ。
金森さんに釘を刺すためとは言え、旦那様からの温かい言葉は心に響く。
「っ……素晴らしいお嬢さんで」
「はい。私の自慢なのです」
気まずそうな顔をした金森さんは、そそくさと逃げるようにその場を後にした。
「ごめんなさい。私、余計なこと……」
「謝らないで、君は本当に優しい子だね」
ポンっと頭を撫でられる。
それから旦那様は私の前に跪き、手を差し出す。
「次は私と踊っていただけますか。お姫様」
本物の王子様だ………
「はい。喜んで」
その手を受け取ると、私の大好きな人は立ち上がって。
私の大好きな笑みを浮かべてくれた。