第5章 ─ わすれじの ─
すると、金森さんがフッと鼻で笑って続ける。
「時任さん。一体どうしたんですか?仕事一筋だった貴方がいきなりなんの取り柄もない凡人の娘を養女を取るなんて……もしかして、手篭めにでもしているんじゃぁ──」
「金森様。私の名前はと申します。今は亡き子爵である総司の娘です」
金森さんの言葉を遮りそう告げると、彼はニヤついていた顔をハッとさせる。
我慢するつもりが、気付けば前に出ていた。
華族であることを自分から言うのは好きじゃない、でも、それで旦那様が悪く言われなくて済むのなら、いくらだって使ってやる。
「時任さんの言うように不慣れではございますが、もしよろしければ私と踊ってくださいませ」
笑顔を作ると、旦那様が心配そうな視線を送る。
本当は旦那様と一番に踊りたかったけど、さっきの発言はどうしても許せない。
ただのお人形じゃないことを分かってもらいたくて、目の前の男に手を差し伸べる。
金森さんは後に引けなくなったようで、曲がかかり始めると私の手を取り足を動かした。
私は背筋を伸ばして、踊り続ける。
なんとか間違わずに一曲を終えると、すぐに旦那様がやってきて即座に金森さんから引き離してくれた。