第5章 ─ わすれじの ─
「ほう。綺麗なお嬢さんだ。うちにも同じ歳くらいの娘がいてね。連れてくれば良かったかな」
「お褒めいただき光栄です。私も莉子様にお会いしたかったですわ。社交会でも評判の絶世の美少女だとお聞きしました。なんでもたくさんの男性から婚約を申し込まれて大変だとか……」
もちろん東海林様の資料もきっちり読み込んである。
娘さんの情報に関しては、晩餐会に来ていたご婦人方に教えてもらったものだ。
「そうなんだよ。うちの娘は我儘で中々相手を決めてくれなくてね……きっと君にも言い寄ってくる男がわんさか出てくるだろうから、変な男には気をつけなさい」
「はい。その時は弥一さんに守ってもらいます!」
「ハッハッハ!可愛いお嬢さんだ!養女とはいえ手放すのが惜しいだろう!?」
そう投げかける東海林さんに旦那様は『はい。とても』と返して、それから仕事の話が始まった。
よし……とりあえず何事もなく終わった……
会話の邪魔にならないように、少し後ろで待機する。
しばらくの間、私にはさっぱり理解できない経済の話や、今後の会社の見通しについてなどの大規模な話を右から左に聞きながら呆気に取られる。
今、まさに私は日本産業の最先端をいく人達を目の当たりにしている。
そう考えると、意識が遠くなりそうだった。