第5章 ─ わすれじの ─
「社長、お嬢様。そろそろお願いします」
しばらく食べ進んだところで、端に控えていた佐渡さんに促されて席を立つ。
来賓の方に挨拶をして回るのだ。
「本日はお越しいただき光栄です。───養女のです。以後お見知りおきを」
「初めまして。どうぞよろしくお願いします」
絶対、いつかは養女から〝妻の〟に変えてみせる。
何度も同じ台詞を繰り返し、何度も同じ決意をする。
旦那様はというと慣れない私を気遣いつつ、ちょっとした雑談から商談へと持っていく。
…………紹宴が始まってからずっと思ってたけど、旦那様の能力高すぎじゃない?!
「それでは次の取引は、前回の倍でお願いしようかな」
「流石に多くないですか。社長」
「いや。弊社の紡ぐ糸は西洋のものと比べて丈夫だと評判を得ているから倍では足りないくらいだよ。中国の市場はまだまだ拡大するから今が攻め時だね」
か、格好いい……なんの話してるか全然付いていけないけど、とにかく旦那様が格好良すぎる……。
普段の穏やかな旦那様からは想像できない、堂々とした振る舞いにまた惚れ直してしまう。