第5章 ─ わすれじの ─
こんな豪華な集まりに参加した経験がない私には、これからどんなことが行われて、何を頑張ればいいのか分からない。
ますます緊張が高まっていく。
「お嬢様は華族の出身だとお聞きしました。きっと大丈夫ですよ。自信を持ってください」
「ありがとうございます……精一杯頑張りますね」
樋口さんに励ましてもらい、その後は他愛もない会話をしていると、話を終えた旦那様がやってきた。
「。樋口君と打ち解けたようだね」
「はい。お陰で緊張が和らぎました」
「それは良かった」
旦那様が『ありがとう』と言うと、樋口さんは一礼して離れていく。
「大丈夫?まだ表情が固いようだけど」
「こんなに華やかな場所は初めてなので……」
旦那様の為…帝都紡績の為に…絶対に失敗は許されないと手に汗握る。
「……。こっちを向いて」
俯く私の顔を旦那様の大きな手が包み込む。
誘われるように上を向いたら、旦那様と目が合った。
「いつもの可愛い笑顔を私に見せて」
樺茶色の瞳、大好きな優しい顔。
旦那様といると自然と心安らぐ。
微笑む旦那様につられて、頬が上がる。
「うん。その笑顔をさえあれば大丈夫だよ」
「……はい」
大丈夫。私には、旦那様がいる。