第5章 ─ わすれじの ─
少しパーマがかかった短髪の彼は、愛想のいい笑顔で私に会釈をする。
「佐渡さんと一緒に社長の秘書をしております。樋口歩です」
「本日社長はお嬢様のお傍にいられないこともありますから、その間、彼が貴方に付き添いますので」
「どうぞ、よろしくお願いします」
年中無表情の佐渡さんとは対照的で、始終にこやかな樋口さんに月と太陽みたいだなぁと思った。
とはいえ、あの佐渡さんと働いてるのだから優秀な人に違いない。
「です。こちらこそ、よろしくお願いします」
頭を下げると『いえ。僕にそのような挨拶はいりませんよ』と笑ってくれた。
あ、いい人だ。良かった……。
「では、私は社長のところへ行きますので」
紹介が終わった佐渡さんは樋口さんに「後は頼んだよ」と小声で伝え、離れていった。
「本日の流れは聞いておられますか?」
「はい。大まかには……」
「もしかして、緊張されてます?」
「……はい。時任さんや皆さんに任せておけばいいと分かっているのですが」
話やすい雰囲気の樋口さんに本音が漏れてしまう。