第5章 ─ わすれじの ─
そして迎えた招宴の日。
こんなこともあろうかとヤチヨさん達が用意してくれた着物は、白地に牡丹が咲き誇る華やかなものだった。
会場となるのは銀座にあるホテルだ。
二百人くらいは入れるのではないかと思われる広間は、畳ではなく洋式の床。
シャンデリアというハイカラな照明や、西洋の有名な画家が描いた絵画、そして立派な花瓶には豪華な花々が飾られていて、別世界に迷い込んだようだった。
旦那様が上層部の社員らしき人と話している間、控え室の前で忙しく動いている従業員さん達を見ながら、ボーッと立ち尽くしてると。
「お嬢様」
佐渡さんが私に声を掛けてくれた。
「佐渡さ〜〜ん。あぁ……こんな不安な状況の中だと佐渡さんがまるで、砂漠の中の池の畔に見える……」
「相変わらず訳が分からないですね。それよりも、お嬢様に紹介をしたい者がおりまして──」
そう話す佐渡さんの横をチラリと見ると、見知らぬ若い男性が少し後ろに控えていた。