第5章 ─ わすれじの ─
「旦那様、今日はね──」
いつものように旦那様と腕を組んで、会話に花を咲かせようとした時。
「お嬢様。もう十八なんですから、そろそろ旦那様離れしないとお嫁に行き遅れますよ」
後ろからヤチヨさんに呆れたように言われ、私はむーっと頬を膨らませる。
「私、お嫁に行かないもん……旦那様と皆と一緒にずっとここにいるもん…」
ヤチヨさんの言うように、ここへ来て二年が経つ。
十八と云えば、いつ嫁いでもおかしくない年齢だ。
だけど私はお嫁に行く気はない。
だって、私は旦那様の奥様にしかならないと決めている。
「そういえば、に話があるんだ」
私がヤチヨさんとお嫁に行く行かない論争をしていると、旦那様から声を掛けられピタリと口を止めた。
「はい!なんでしょう?」
旦那様ナイスです!ヤチヨさんから逃げるように、パッと顔を向ける。
「実は来週末、帝都紡績の招宴があってね。にも出席して欲しいんだ」
「私も……ですか?」
「ああ。政府の関係者を招いた。顔繋ぎのようなものだよ。私一人ではみっともないから、隣に華を添えてくれるかい?」
そういえば、お父様もそうした催しに時々呼ばれていたような。