第4章 ─ いまはただ ─
「社長」
呻いたその瞬間、後ろから鎮静な声が掛かった。
………ああ、そうだ。明日の会商に必要な記文が一部抜けていたから渡しに来ると佐渡から連絡があったな。
眠りに落ちたを降ろして、布団を掛ける。
「すみません。お邪魔するつもりは……」
「いや、構わない」
きっちりと背広をきた秘書の存在に、現実味が戻ってきた。
一度目を閉じて精神を落ち着かせると、後ろを振り向く。
「私がに手を出すとでも?」
落ち着いた口調で尋ねる。
開いた障子の前で正座をした佐渡は、いつもと変わらない淡然たる目で私を見る。
「信じ難いことではないかと」
「君らしくないなぁ……は十六の子供だ。有り得ないよ」
「……一般論ですね。お嬢様のお気持ちは既に分かっておられるのでは?」
挑むような口調は、牽制したいのかそれともけしかけたいのか……。
この男の考えていることは、年齢を重ねても理解出来る気がしない。
「……父親のように慕ってくれているだけだよ」
おそらく今まで若い娘と関わったことがないせいで、こんなにも調子が狂うのだろう。