第4章 ─ いまはただ ─
確かこれは、がよく着ている着物だ。
柔らかな黄色に小さな菊模様。
明るく可愛らしいに、とてもよく似合っていた。
「それは……」
破棄するのかと尋ねれば、ヤチヨはまさか。と首を振った。
「直しに出す分ですよ。捨てたりしたらお嬢様は私を一生恨むでしょうね」
「ははっ、相当気に入っているようだね」
が目を覚まさないように小声で相槌を打てば、ヤチヨがふふっと微笑む。
「旦那様が一番最初に似合うと褒めた着物ですから、お嬢様はとても大事にしているのですよ」
一瞬、顔が緩むのを我慢出来なかった。
『そうか』と答えた声は、いかにも動揺していて心の中でした舌打ちしたくなる。
「全く……旦那様は相変わらず女心が分かっていませんねぇ」
「ああ。そうみたいだ………ヤチヨ、の布団を敷いてれるか?」
「もう敷いておりますよ。起こして差し上げては?」
この場から逃げたくなって話題を変えれば、ヤチヨは小首を傾げた。
の髪に触れながら、首を振る。
「よく眠っているから、私が自室まで運ぶよ」
ヤチヨの返事を待つことなく、を横に抱くと揺らさないように立ち上がり部屋から出た。