第4章 ─ いまはただ ─
「……はい。私、これがいいです」
椿の風鈴を手に取ると店主に渡そうとするので、我に返ってその手を掴んだ。
「私のではなくて、の好きなものを選びなさい」
一瞬、はビクッと身体を硬直させたが、すぐに力が抜けて肩を落とす。
「私は、旦那様が好きと言ったものが好きなんです」
嬉しそうだった顔が一転して曇り、眉が下がる。
「……駄目、ですか?」
─── チリン……
小さな風鈴の鳴る音が、私の胸の奥から聞こえた。
手を離した後に、帰り道でが指先に摘んだ椿の風鈴を見つめる。
つい先程、悲しげに見上げる少女の顔を思い出せば、形容しがたい何かが胸の底から込み上げてくる。
可愛らしいと言う言葉では、到底足りないこの感情を──
一体、何と言ったか…………。