第4章 ─ いまはただ ─
屋敷を出て少し歩いたところで、風鈴売りを見つけた。
三寸(さんずん)と呼ぶ木製の枠組みに、江戸風鈴、らせん風鈴、南部鉄器、風鈴ピアス、陶器の根付けなどの様々な種類の風鈴が吊るされてある。
風が吹く度にチリンチリンと涼しい音色が通りに響き、道行く人が足を止める。
私の隣にいるは、案の定、視界に広げられる風鈴の多さにどれを選べばいいのか迷っている様子だ。
「私ならこれにするかな」
選ぶ手助けになればと、外見に椿の模様が描かれている風鈴を指させば、は『あ』と何かに気付いたように呟いた。
私と、同じことを思ったらしい。
「あの時のみたいだね」
そう付け加えると、はじっと私を見つめ始めた。
子犬のようなひたむきな瞳は、風鈴を照らす光のせいか、濡れているように見える。
吸い込まれそうに、深くて……何故か、熱さを感じた。
………おかしいな。
心の中で呟く、寄る年波には勝てず、不整脈かと静かに息を整える。