第4章 ─ いまはただ ─
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「…………っ」
そこまで思い出し、自分の愚かさにゾッとする。
あれは、近くの大人に対する幼子のような純粋な好意であって、一瞬でも違う意味に捉えてしまった私は、とうとう焼きが回ってしまったのだろう。
をいつかはどこかへ嫁がせる。
そう決めたのは自分だというのに───
このままいけばそう遠くはない日に、はこの家を出ていくだろう。
元々器量が良く、人に好かれる性格をしてたけれど、近頃はまた身体付きも女性らしくなり、顔立ちも大人びてきた。
それでいて、性格はそのままに、愛嬌溢れる。
彼女を嫁にしたい男など、山ほどいるだろう。
……そこら辺の男には絶対にやらないが。
の素直な行動や言動は癖になる。
旦那様と満面の笑みで呼びながら、着物の袖を揺らし駆け寄ってくるあの姿。
実の父親でなくとも、愛らしいと思ってしまう。
………時々、素直すぎて戸惑うこともあるが、もしが屋敷から出ていけば、寂しいと感じてしまうだろう。
だからそれまで、目一杯愛情を注ごうと、顔を合わせるたびに困ったことはないか、欲しいものはないかと、ついつい聞いてしまう。
『遊女を口説こうとする上客ですか?』
と、笑えない忠告を佐渡に言われてからは自重し、あまりしつこく聞かないように気を付けている。
しかし。
風鈴くらいなら、許されるのではないだろうか……
そういえば帰宅する途中、屋敷の近くで風鈴売りを見かけた。
今行けば間に合うかもしれない。
……よし。
自室へ戻り財布を取ると、私は再びの元へと向かった。