第4章 ─ いまはただ ─
不意に、が立ち上がった。
子供が落とした風車を拾って、返す。
その表情がいつもと違って、酷く寂しそうで思わず駆け寄ってしまった。
小さい頃に父親に買ってもらった風車を、今はもう無くしてしまったという。
どこか切なく、初めて見る表情だった。
…………はまだ、両親を亡くした悲しみから立ち直っていないのだろう。
食事の時に聞くの話はいつも勉強のことや、庭に咲いた花のことなど、どれも他愛もない可愛らしい会話で、自分のことや両親について語られた事は一切ない。
が両親の名を口にしたのも、屋敷に来た最初の日だけだ。
ヤチヨや秘書の佐渡に聞いても、話題に上がったことすらないという。
彼女自身が思い出さないように、無意識に避けているように感じた。
だからこそ、の口から出た『父』という言葉に驚いた。
少しでも懐かしいと思える記憶があるなら、大事にしてほしい。
そう思い、子連れの夫婦の後を追いかけて、風車を買った店を尋ねた。
いつどこで渡そうか考えると昔、よく行った河川敷を思い出して、少々強引にを誘った。
あそこなら静かで人もいない、が少しでも心安らげるといいのだけれど……