第4章 ─ いまはただ ─
◆◆◆
「風鈴……ですか?」
仕事から帰宅して着替えを済ませると、不意に耳に飛び込んできたヤチヨの声に、思わず足を止めた。
視線を向けると、廊下の中央付近でがヤチヨに何かを聞いている。
いけない………と分かりつつも、咄嗟に身を隠して、耳を傾ける。
するとまたヤチヨの声が響いた。
「そうですねぇ。どこかに仕舞った覚えはあるのですが…」
その後に続いたのは、聞き取れないほどのの声。
はいつも欲しがらず、最低限の物しか必要としない。
年頃の娘だから欲しい物はいくらでもあるだろうと思っていたけれど、元々物欲がない子だと分かったのは、先日二人で街に出掛けた時だった。
欲しいものがあれば何でも買いなさい。というけれど、首を振って店から出ようと愛らしく袖を引く。
高級店を抜けたところで、の肩の荷がおりたのを感じて、これは間違いだったと悟った。
勉強に礼儀作法にと、毎日頑張っているの為に何かご褒美と思っていたが、逆に気を遣わせてしまったみたいだ。