第3章 ─ かくとだに ─
私が落ち着くまで、旦那様はずっと背中を撫でてくれていた。
泣き続けていたせいで、頭も喉も痛い、だけど気持ちはすっきりとしていた。
旦那様が私の頭にポンッと手を置くと、そっと身体を離す。
一瞬、もう帰っちゃうのかな……?と残念に思ったけど、すぐに隣に腰を下ろしてくれたので安心した。
「総司さんの代わりは無理だろうけど、もう少し私にも甘えて欲しいな。我儘な娘だと困るくらいに遠慮なく欲しいものは言っていいんだよ?はいい子過ぎる」
「………そんなことしたら私、馬鹿娘になってしまいます」
「ははっ、それはそれで可愛いなぁ」
泣いて火照った頬を手で隠しながら、もう十分甘えてるけどなぁ…と首を傾げる。
どちらかというと、旦那様の方が私に甘々だ。
欲しいもの、か………やっぱり、思いつかない。
着物も装飾品も必要な分だけで十分だし、毎日の着替えだって、ヤチヨさん達に選んでもらっている。
今時の流行とかには疎くて、着物の組み合わせもどうしていいか分からない。
そもそも旦那様の屋敷に来る前からそうだった。
すぐ『なんでもいいよ』って言っちゃうし、それでいて周りも動いてくれるから困ることはなかった。
「私…あまり、欲がないみたいで」
泣いてしまった照れ臭さもあって、少しおどけてみせる。
(あ…………)