第3章 ─ かくとだに ─
途端に、朧気だった記憶が鮮明に思い出される。
『父様と母様はずっと、を愛しているよ」
父が命を絶つ前に、眠る私に呟いたこと──。
愛されてた……愛してくれていた。
ようやく気付いて、旦那様に確認するように口に出した。
「お父様は……私のことをどうでもいいなんて、思っていませんよね?」
「うん」
「私のせいで、お母様が死んでしまったと…思っていませんよね?」
「うん」
「お父様と、お母様は…私のこと、愛してくれていましたよね?」
『今までも、ずっとそうだよ』と答えてくれる旦那様に、喉が詰まった。
「私、不安だったんです…辛くて怖くて、だけどお母様もお父様も誰も私を守ってくれる人がいなくて………ずっと一人で寂しかったんです……時々、消えてしまいたいって………」
そして私は、今までずっと、ずっと誰かに聞きたかった言葉をようやく口にすることができた。
「私……幸せに、生きてもいいです、か?」
最後の方は涙で消えそうだったけど、旦那様には聞こえたみたいで、抱き締めていた手が優しく頭を撫でた。
「そんなの。当たり前だよ」
慈しむようにそう言ってくれた旦那様の言葉も、またずっと私が聞きたかった答えだった。