第3章 ─ かくとだに ─
「そうじゃないと、本当は分かっているんだよね」
隣から掛けられた声は優しい。
頑なな気持ちを溶かすほどに、素直に言葉の意味を考えてしまう。
本当は分かってる?ううん。そうじゃない………自分のせいで、お母様もお父様も不幸になってしまった。
「違います……私は」
「ご両親がどんなに君を愛していたか、何よりも君自身が一番知っているはずだよ」
「っ…そんなわけないです!愛されてなんか」
隣に顔を向けた瞬間、旦那様がそっと優しく背中から抱きしめてくれた。
「。もういいよ。もう自分を責めるのはよしなさい。今まで悲しかったね、苦しかったね。母親を亡くして、総司さんまでいなくなって、一人になって……寂しかったね」
切なくて優しい声が私の中に入ってくる。
ずっとこうして欲しくなって、前に回された手にギュッとしがみつく。
寂しかった………ああ、そうか、私はずっと寂しかったんだ。
だから、全部を自分のせいにしてた。
その方が、悲しみに向き合わずに済むから、お母様やお父様を失った現実から逃げられるから。
私は寂しくない、可哀想じゃないと、そう自分で思いたかった。